世の中にはどれほど多くの、売れる商品を世に出す秘訣について書いた本が出ているのだろう。ある製品が爆発的に売れたのに対して、同種の製品が全く売れなかった、という対比させる例を示し、「こうだから売れたのだ」と分析してみせる。なるほど、と思うけれど、同じことをしてもやはり売れるとは限らないのではないか、と疑問もわいてきて終わる。そんな経験が過去に何度もあったような気がする。
エイドリアン・J・スライウォツキー著「ザ・デマンド」(爆発的ヒットを生む需要創出術):日本経済新聞社 もそんな1冊かと思ったら、語り口は柔らかく、事例のストーリーが面白いにもかかわらず、読むのにかなり時間をとってしまった。それだけ中身が濃いということである。
「需要創出」だけ取り上げて、6つの法則を上げている。
1.マグネティック: 機能面と情緒面の「魅力」が需要を生み出す
2.ハッスル・マップ: 時間とお金をムダにする「欠点」を明らかにする
3.バックストーリー: 「見えない要素」で魅力を強化する
4.トリガー: 人々を「夢中」にさせ、購買の決断を下してもらう
5.トラジェクトリー: 魅力を「進化」させ、新しい需要層を掘り起こす
6.バリエーション: 「コスト効率の高い製品多様化」を図る
各々が、かなり実現が難しい「法則」であり、しかも、6つのうちどれが欠けても「需要創出」に至らない可能性がある。すなわち、高いハードルが沢山あり、それをすべて見事にクリアできなければならないのである。
成功した企業に対して対比される企業が少なくても、「多分他もそうだろう」と思わせる厳しさを感じさせる。
市場を創る、などと簡単には言ってはならない、と思わざるをえなかった。ビジネスは難しい。
2013年11月27日
「ザ・ディマンド」は思いのほか読むのに時間がかかった
posted by 石田厚子 at 17:47| Comment(0)
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2013年11月20日
「インテンション・エコノミー」で顧客主導を再発見
3年ほど前に、人工衛星が撮影する画像をユーザーに提供する衛星画像のビジネスについて調べていた。高額のコストをかけて撮影された画像を流通させるビジネスの規模があまりに小さいことに驚いた。
その後、3.11の東日本大震災の後、世界中から衛星画像が提供され、専門家がそれらを組み合わせて分析することにより一般の人たちが震災の被害状況を詳細に知ることができたことを知った。
衛星画像は、撮影する人工衛星によって、解像度、撮影範囲、撮影頻度などが様々である。それらを別々に販売することでは特定の顧客に対して限られた価値しか提供できない。しかし、様々な画像を組み合わせることにより、ユーザーが求める情報が作れ、大きな価値を提供することができる。つまり、衛生画像のビジネスは、人工衛星を飛ばす会社や組織主体ではなく、それから得られる情報のユーザー主体で行われなければならないのではないか、とそのとき気づいたのである。
さらに、ユーザー主導で情報を得ようとするにはエージェント(仲介役)が必要であることにも気づいた。
その時の気付きを再認識させてくれたのがこの本である。事例が豊富なので読み進むのが楽しいが、さらっと簡単に読める本ではない。
ドク・サールズ著「インテンション・エコノミー」(顧客が支配する経済):翔泳社 である。
ここで一貫して述べられているのが、VRM(Vendor Relationship Management)である。その対角にあるのがCRM(Customer Relationship Management)であるのはすぐにわかる。CRMでは、売り手企業(ベンダー)が顧客の情報を集めて顧客を囲い込もうとするのに対して、VRMでは、顧客(ユーザー)が自らの情報を管理し、それに基づいてベンダーを選択し利用する。
VRMの特徴は、個人の情報を個人が管理するという視点であるが、もう一つはエージェントの存在が必要になるということである。
そうか、2年半前に考えたのはVRMだったのか、と考えが及んだとき、ちょっときついけれどこの本を最後まで読まなければ、と思った。
本書にも書いてあるが、まだまだVRMの本格的な実現には到達していない。エージェントの仕組みの実現が難しい。しかし、本書ではかなり実現に近づいていると言っている。
「顧客中心〜」と「顧客主導〜」は違う、と言う。前者は顧客の外から与えられるもの、後者は顧客自身が行うものである。ここで目からうろこが落ちた。「あなたのことを考えてご提供します」とベンダーからプッシュされるものが「顧客中心」であり、顧客自ら、エージェントの力を借りて適切なベンダーを探し出し、適切なサービスを受けるのが「顧客主導」である。もちろん、顧客主導になっていくはずだろう。
娘の結婚式で留袖を着ることになり、着物の知識の無い私は三十数年前に親に仕立ててもらった留袖と帯を前に呆然としていた。インターネットを検索しまくり、様々な知恵を授けてもらったお蔭で恥をかくことなく結婚式に臨むことができた。しかし、それから2か月以上経つのに、ネットで何かの記事を読むたびに、留袖のレンタル、袋帯などの広告が張り付いてくる。全く無駄としか言いようのない宣伝ではないか。
ネットの世界では私の行動や個人情報が洩れ洩れかもしれないが、私の行動の意味までは掴めていないようだ。
その後、3.11の東日本大震災の後、世界中から衛星画像が提供され、専門家がそれらを組み合わせて分析することにより一般の人たちが震災の被害状況を詳細に知ることができたことを知った。
衛星画像は、撮影する人工衛星によって、解像度、撮影範囲、撮影頻度などが様々である。それらを別々に販売することでは特定の顧客に対して限られた価値しか提供できない。しかし、様々な画像を組み合わせることにより、ユーザーが求める情報が作れ、大きな価値を提供することができる。つまり、衛生画像のビジネスは、人工衛星を飛ばす会社や組織主体ではなく、それから得られる情報のユーザー主体で行われなければならないのではないか、とそのとき気づいたのである。
さらに、ユーザー主導で情報を得ようとするにはエージェント(仲介役)が必要であることにも気づいた。
その時の気付きを再認識させてくれたのがこの本である。事例が豊富なので読み進むのが楽しいが、さらっと簡単に読める本ではない。
ドク・サールズ著「インテンション・エコノミー」(顧客が支配する経済):翔泳社 である。
ここで一貫して述べられているのが、VRM(Vendor Relationship Management)である。その対角にあるのがCRM(Customer Relationship Management)であるのはすぐにわかる。CRMでは、売り手企業(ベンダー)が顧客の情報を集めて顧客を囲い込もうとするのに対して、VRMでは、顧客(ユーザー)が自らの情報を管理し、それに基づいてベンダーを選択し利用する。
VRMの特徴は、個人の情報を個人が管理するという視点であるが、もう一つはエージェントの存在が必要になるということである。
そうか、2年半前に考えたのはVRMだったのか、と考えが及んだとき、ちょっときついけれどこの本を最後まで読まなければ、と思った。
本書にも書いてあるが、まだまだVRMの本格的な実現には到達していない。エージェントの仕組みの実現が難しい。しかし、本書ではかなり実現に近づいていると言っている。
「顧客中心〜」と「顧客主導〜」は違う、と言う。前者は顧客の外から与えられるもの、後者は顧客自身が行うものである。ここで目からうろこが落ちた。「あなたのことを考えてご提供します」とベンダーからプッシュされるものが「顧客中心」であり、顧客自ら、エージェントの力を借りて適切なベンダーを探し出し、適切なサービスを受けるのが「顧客主導」である。もちろん、顧客主導になっていくはずだろう。
娘の結婚式で留袖を着ることになり、着物の知識の無い私は三十数年前に親に仕立ててもらった留袖と帯を前に呆然としていた。インターネットを検索しまくり、様々な知恵を授けてもらったお蔭で恥をかくことなく結婚式に臨むことができた。しかし、それから2か月以上経つのに、ネットで何かの記事を読むたびに、留袖のレンタル、袋帯などの広告が張り付いてくる。全く無駄としか言いようのない宣伝ではないか。
ネットの世界では私の行動や個人情報が洩れ洩れかもしれないが、私の行動の意味までは掴めていないようだ。
posted by 石田厚子 at 13:28| Comment(0)
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2013年11月14日
「Repeatability」確かにそうだけれど
先週、50年ぶりに袋田の滝に出かけた。天気に恵まれ、紅葉も美しく、景色を堪能した。その朝、上野駅から特急に乗るまでの時間に構内の書店でビジネス書を探した。最近は、平積みになっている最新刊や話題の書は避けて、タイトルか著者で気になるものを選んでいる。そして見つけたのがこの本である。1年前に出たもので、サブタイトルが大げさ(?)なのに圧倒されてつい買ってしまった。
クリス・ズック、ジェームズ・アレン著「Repeatability」(再現可能な不朽のビジネスモデル):プレジデント社 である。ベイン・アンド・カンパニーのコンサルタントによる著作で、同日本支社の代表である火浦俊彦氏も日本の事例を執筆している。
前回ブログに書いた「新しい市場のつくりかた」と対で読むと面白いかもしれない。成長し続ける、あるいは一度は低迷しても復活して再度成長する企業を調べ、そこにある再現可能な「共通的な何か」を「不朽のビジネスモデル」として示したのが本書である。
3つの原則が掲げられている。
原則1:明確に差別化されたコア事業
原則2:絶対に譲れない一線
原則3:循環型学習システム
これだけ見ると、どこでも言われていることではないか、と考えてしまうが、多くの事例(ただし、日本人にはなじみのない会社が大半)があり、納得感はある。
示された原則に納得はできても、はたしてこれを実践できるか、となるとかなり難しいだろう。企業によっては、そんなことはとっくにやっているけれど効果が現れない、と思っているところもあると思う。事実、私が勤めていたどの会社でも、日々の予算に追われて、このようなことを考える余裕はなかった。
そこで、自営業としての自分にあてはめて考えてみた。原則の2がこれまでにない新鮮な考え方だと気付いた。石田厚子技術士事務所の絶対に譲れない一線とは、「多様な価値観を大切にし、個別に問題を解決する。決まったやり方、方法論などを押し付けない。」
方法論やツールを教える研修やコンサルティングはしない、ということなんだけど、持続的成長の前に、ローンチができていないのが問題である。
クリス・ズック、ジェームズ・アレン著「Repeatability」(再現可能な不朽のビジネスモデル):プレジデント社 である。ベイン・アンド・カンパニーのコンサルタントによる著作で、同日本支社の代表である火浦俊彦氏も日本の事例を執筆している。
前回ブログに書いた「新しい市場のつくりかた」と対で読むと面白いかもしれない。成長し続ける、あるいは一度は低迷しても復活して再度成長する企業を調べ、そこにある再現可能な「共通的な何か」を「不朽のビジネスモデル」として示したのが本書である。
3つの原則が掲げられている。
原則1:明確に差別化されたコア事業
原則2:絶対に譲れない一線
原則3:循環型学習システム
これだけ見ると、どこでも言われていることではないか、と考えてしまうが、多くの事例(ただし、日本人にはなじみのない会社が大半)があり、納得感はある。
示された原則に納得はできても、はたしてこれを実践できるか、となるとかなり難しいだろう。企業によっては、そんなことはとっくにやっているけれど効果が現れない、と思っているところもあると思う。事実、私が勤めていたどの会社でも、日々の予算に追われて、このようなことを考える余裕はなかった。
そこで、自営業としての自分にあてはめて考えてみた。原則の2がこれまでにない新鮮な考え方だと気付いた。石田厚子技術士事務所の絶対に譲れない一線とは、「多様な価値観を大切にし、個別に問題を解決する。決まったやり方、方法論などを押し付けない。」
方法論やツールを教える研修やコンサルティングはしない、ということなんだけど、持続的成長の前に、ローンチができていないのが問題である。
posted by 石田厚子 at 10:42| Comment(0)
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